資産三分法は今も万能?現金・不動産・株式の古典理論vs現代版リスクヘッジの考え方

マネックス証券
資産三分法は万能か?
リーマン・コロナ・イラン情勢の暴落データで検証

「資産三分法」という言葉を聞いたことがあっても、実際にどれくらい資産が守れるのか、数字で確認したことがある人は少ないのではないでしょうか。

本記事では、リーマンショックからコロナショック、そして直近の中東情勢まで、実際の相場データをもとに「株式・REIT・金」の3資産に分散した場合と、一つの資産に集中投資した場合を比較検証します。

あわせて、"3"という数にこだわらない現代的な分散の考え方も紹介します。

財産を守るには、まずリスクヘッジという発想が必要

資産形成というと「増やす」ことに意識が向きがちですが、増やす前提として欠かせないのが「守る」という発想です。ただし、ここで言う「守る」とは、暴落や下落時の資産減少そのものを完全に防ぐという水際対策のことではありません。市場が下落する局面そのものは、誰にも避けられません。大切なのは、その下落時の資産減少幅をできるだけ小さく抑え、傷口を浅くしておくことです。

現金を銀行預金に置いておくだけでも、インフレが進めば実質的な価値は目減りしていきます。逆に、一つの資産(例えば単一株や単一の投資信託)に集中投資していると、その資産が暴落した瞬間に大きな含み損を一身に受けることになり、生活そのものが立ち行かなくなる「退場リスク」を抱えることになります。

つまりリスクヘッジとは、「下落を防ぐ技術」でも「利益を最大化する技術」でもなく、「下落は起きるという前提のもとで、そのダメージを最小限に抑え込む技術」です。ここを整理した上で、投資の世界で古くから語られてきた「資産三分法(財産三分法)」という考え方を見ていきます。

資産三分法とは何か

資産三分法(資産三分割法とも呼ばれます)とは、性質の異なる複数の資産に分けて保有することで、一つの資産が下落しても他の資産でカバーし、資産全体の値動きを安定させるという考え方です。伝統的には「現金・不動産・有価証券」の3つに分けるスタイルが基本形として紹介されてきました。

ただし、あらかじめ断っておきたいのは、これは現代ポートフォリオ理論(MPT)のように数理的に「最適な配分」を導いた学術理論ではなく、金融・不動産業界で実務的に使われてきた経験則・説明用のフレームワークだという点です。「3という数字」自体に理論的な必然性はなく、実際に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は国内外の株式・債券を組み合わせた4資産での運用を基本としています。

「3」にこだわらなくていい

資産三分法の本質は「値動きの異なる複数の資産を組み合わせる」という原則にあります。数を3に固定する必要はなく、2でも4でも、自分の状況に合わせて設計して構いません。この記事では、値動きの性質がはっきり異なる「株式・REIT(不動産投資信託)・金(ゴールド)」の3資産を使い、実際の歴史的な相場変動をもとに、単一資産に集中した場合と3資産に分散した場合でどれだけ資産保全に差が出るかを試算してみます。

試算の前提:いずれも300万円を投資していたと仮定し、各局面の下落率(一部は概算)をそのまま反映した単純計算です。実際には売買タイミング・税金・手数料・為替変動などにより結果は変わります。あくまで「規模の違うショックで、分散効果の見え方がどう変わるか」を掴むための参考値としてご覧ください。

パターン① 巨大な暴落:リーマンショック/コロナショック

リーマンショック(2007年〜2008年)

  • 株式(日経平均): 2007年2月の18,300円台から2008年10月には6,994円まで、約62%下落。
  • REIT(東証REIT指数): 不動産流動化ビジネスの破綻や資金目詰まりが直撃し、主要ショックの中でも突出した約65%の記録的な大暴落。
  • 金(ゴールド): 危機直後の2008年秋には、金融機関や投資家による「現金の確保(換金売り)」が殺到したため、一時的に高値から約20%下落しました。しかし、株やREITが低迷を続ける中、金はいち早く底打ちして反転。中央銀行の利下げや通貨安への懸念を背景に、2009年〜2011年にかけて当時の史上最高値を更新する大暴騰を見せました。
資産配分投資額暴落後の評価額増減
株式100%300万円約114.0万円▲186.0万円(▲62.0%)
REIT100%300万円約105.0万円▲195.0万円(▲65.0%)
金100%300万円約240.0万円▲60.0万円(▲20.0%)
※一時的
3分法(株式・REIT・金 各100万円)300万円約153.0万円▲147.0万円(▲49.0%)

※金の「一時的な下落」だけを見るとリスクヘッジ効果が薄く見えますが、その後の驚異的な回復スピードを含めると、長期的な資産保全において「有事の金」としての役割を十分に果たしたと言えます。

コロナショック(2020年)

  • 株式(日経平均): 2020年1月の24,083円から3月には16,552円まで、約31.3%下落。
  • REIT(東証REIT指数): オフィス需要の激減やホテル・商業施設の休業懸念が直撃し、2月高値の2,250ポイント近辺から3月安値の1,145ポイントまで、実際には約48.7%と株以上の大暴落を記録。
  • 金(ゴールド): 3月上旬の1,700ドル超えから中旬には1,500ドル割れ(高値1,703ドルから安値1,456ドル)まで、約14.5%の一時的な下落。リーマン時と同様、初期の恐怖心理による「総キャッシュ化」の波に飲まれた形。
資産配分投資額暴落後の評価額増減
株式100%300万円約206.1万円▲93.9万円(▲31.3%)
REIT100%300万円約153.9万円▲146.1万円(▲48.7%)
金100%300万円約256.5万円▲43.5万円(▲14.5%)
3分法(株式・REIT・金 各100万円)300万円約205.5万円▲94.5万円(▲31.5%)

不動産(REIT)が株以上に売り込まれたコロナショックにおいて、3分法は「REIT100%」の致命傷を綺麗に回避し、全体の下げ幅を日経平均(株100%)と同等レベルにまでマイルドに抑え込むことに成功しています。

パターン② 中規模の地政学リスク:2026年イラン戦争

2026年2月28日、米国・イスラエルによるイランへの軍事攻撃が始まりました。日本は原油輸入の大半を中東・ホルムズ海峡経由に依存しているため、欧米よりも強く株価に影響が出た局面です。

  • 株式(日経平均):攻撃開始から10営業日で約8.5%下落(世界株指数の5.4%下落より大きい下げ幅)
  • REIT(東証REIT指数):2,000ポイント前後から1,914ポイントまで、約4.3%下落
  • 金:攻撃直後は「有事の金買い」ではなく、ドル高・インフレ懸念による米金利上昇を背景に下落する場面が見られ、方向性としては軟調に推移
資産配分投資額下落後の評価額増減
株式100%300万円約274.5万円▲25.5万円(▲8.5%)
REIT100%300万円約287.1万円▲12.9万円(▲4.3%)
金100%300万円約294万円前後▲6万円前後(▲2%程度、概算)
3分法(株式・REIT・金 各100万円)300万円約285万円前後▲15万円前後(▲5%程度)

※金の下落率は攻撃直後の値動き(約1%安)とその後のドル高基調を踏まえた概算です。正確なピーク・ボトムの変化率としての公表値が見当たらなかったため、他の数値より精度が低い前提としてご理解ください。

この事例は「分散すれば必ず助かる」わけではないことを示す好例です。本来「有事の金」として上昇が期待される金までもが、ドル高という別の力学で下落しており、株式・REIT・金の3資産がそろって下落するという、分散効果が薄い局面でした。

パターン③ 軽微な地政学リスク:2025年イスラエル・イラン「12日間戦争」

2025年6月13日、イスラエルがイランの核関連施設を攻撃したことで市場が反応した局面です。

  • 株式(日経平均):前日比0.89%安(37,834円)。ただし週明けには477円高と大幅反発し、下げをほぼ取り戻す
  • 金:前日比1.9%高(1トロイオンス3,467ドル)
  • REIT:この局面に限定した明確な反応は確認できず、大きな影響は見られなかったと推定
資産配分投資額評価額(当日ベース)増減
株式100%300万円約297.3万円▲2.7万円(▲0.89%)
金100%300万円約305.7万円+5.7万円(+1.9%)
3分法(株式・REIT・金 各100万円)300万円約301万円前後ほぼ横ばい〜微増

軽微なショックでは、そもそも下落幅自体が2〜3万円程度しかなく、分散の効果を実感しづらいレベルです。むしろこのケースでは金に全額投資していた人が最も得をしており、「3分法が常に一番得をする配分」ではないことがわかります。

3つのパターンから見えてくること

ショックの規模単一集中投資(最悪値)3分法(株式・REIT・金)分散の効果
巨大(リーマン)▲65.0%(REIT100%)▲49.0%大きく効く(傷を浅く抑える)
巨大(コロナ)▲48.7%(REIT100%)▲31.5%致命傷を回避し、株と同等に抑制
中規模(2026年イラン戦争)▲8.5%(株式100%)▲5.0%程度効くが限定的、全資産下落もあり得る
軽微(2025年12日間戦争)▲0.89%(株式100%)ほぼ横ばい〜微増ほぼ実感なし、集中の方が得なことも

ここから言えるのは、「3分法という"型"そのものが常に最善の結果をもたらすわけではない」ということです。3分法が力を発揮するのは、暴落の規模がある程度大きく、かつ資産間の値動きの相関が実際に低くなる局面に限られます。コロナショックのように「前評判では安全と思われていたREITが株以上に暴落する」といった想定外の事態において、3分法は致命傷を避ける強力な盾となります。一方で、2026年のイラン戦争の事例のようにすべての資産がそろって下落するケースもあれば、2025年の軽微な事例のように単一資産(金)に集中していた方が結果的に得をするケースもあります。

ただし、これは「分散investing自体が無意味」という結論ではありません。むしろ逆で、「どの資産が値上がりし、どの資産が値下がりするかを事前に正確に予測することはできない」という不確実性がある以上、何らかの形で分散しておくこと自体には一貫して意味があります。今回の検証が示しているのは、「分散すべきかどうか」ではなく、「"現金・不動産・有価証券"という伝統的な3分類だけが分散の正解ではない」という点です。3という数字にも、資産の"種類"で分けるという切り口にもこだわる必要はなく、自分のリスク許容度や資金の使い道に応じて、分散の軸そのものを設計し直す方が実践的です。

「3分法」を超えた、分散のバリエーション

資産の"種類"で3つに分けるという古典的な発想以外にも、実務ではさまざまな切り口の分散が使われています。自分の状況に合わせて、複数の軸を組み合わせるのが現実的です。

資産クラス系

  • アセットミックス: 株式・債券・コモディティ(金や原油などの実物資産・オルタナティブ)
  • 通貨分散(為替リスク管理): 円資産だけでなく米ドルなどの外貨資産を保有する。また、投資信託における「為替ヘッジあり・なし(現地通貨建て)」を組み合わせる。

地域分散系

  • 地理的リスクの排除: 国内・先進国・新興国
  • 人的資本との分散(重要): 自分の「本業の業界」と投資先をあえてずらす(例:情報通信業勤務なら、日本株の情報通信への集中投資を避け、海外や別業界に分散して給与と運用資産の同時共倒れを防ぐ)。

時間軸・流動性系

  • 目的別の資金枠: 生活防衛資金(即引き出せる現金)・中期資金(3〜10年後に使う予定、債券中心)・長期資金(10年超、株式中心)
  • 時間の分散: 一括投資・積立投資(ドル・コスト平均法)・押し目での追加投資

制度・税制系

  • 「器」の使い分け: NISA・iDeCo・特定口座(課税タイミングや引き出し制限、非課税メリットの異なる口座を使い分ける)

運用スタイル系

  • コア・サテライト戦略: コア(市場平均を狙うインデックス投信)と、サテライト(リターンを狙う個別株やテーマ型運用)、そしてキャッシュ(待機資金)を組み合わせる戦略。機関投資家も実務で活用する確立された枠組みです。

「資産・地域・時間軸・制度・運用スタイル」という5つの軸のうち、どれか1つだけを完璧にする必要はありません。伝統的な資産三分法を"入り口"として理解した上で、自分の年齢・収入・資金の使い道に応じて、これらの軸を組み合わせていくのが、現実的なリスクヘッジの形だと言えるでしょう。

最終的に大切なのは、自分自身のライフスタイルやライフプランにリスクヘッジという視点を組み入れた上で、どの分散方法を選ぶかを決め、それに基づいて資産運用を始めることです。そして一度決めた配分をそのまま放置するのではなく、社会情勢の変化や、結婚・住宅購入・子どもの独立・退職といったライフイベントの節目に合わせて、配分を定期的に見直していくことが重要です。分散方法は「一度決めたら終わり」ではなく、自分自身の状況とともに更新し続けるものだと捉えておくとよいでしょう。

【注意事項】
本記事に掲載している過去の相場データやシミュレーション結果は、あくまで歴史的事実に基づく参考値であり、将来の運用成果や特定の相場展開を示唆・保証するものではありません。また、地政学リスク等の個別事例に関する数値は検証当時の情報に基づくものであり、その完全性を保証するものではありません。

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